内外の定義 『笑わない数学者』森博嗣

みなさまお久しぶりです。
このところ立て込んでいて、なかなか読書レポを書くことができなかったのですが、今回は僕の一番好きなミステリシリーズ、S&Mシリーズから『笑わない数学者』をご紹介します。

森博嗣先生のS&Mシリーズといえば、犀川創平教授と学生の西之園萌絵のコンビが事件を解き明かすシリーズです。
メフィスト賞受賞作『すべてがFになる』から続く人気シリーズで、綾野剛さんと武井咲さん主演でドラマ化もされていたのでご存知の方も多いかと思います。
「今は夏。彼女はそれを思い出す」という『すべてがFになる』の書き出しは一番衝撃を受けました。

今回はそんなシリーズの第三弾、『笑わない数学者』です。
ミステリという性質上なるべく真相には触れずに感想を連ねていきたいと思いますが、些末なヒントもいやという方は念のためブラウザバックをお願いします。

今回の事件の舞台は、天才数学者天王寺翔蔵博士の住む「三ツ星館」。
三ツ星館を設計した片山基生、売れっ子作家の天王寺宗太郎など、才能あふれる天王寺家の人々が絡み合うミステリです。
あらすじなどは調べていただければわかることなので、読後感についてを主に説明していきます。

今回のトリックはミステリの中では特別複雑というわけではありませんでしたが、それでもすべてが明らかになったときに「やられた…。」と感じました。森作品の真骨頂ですね。どう事件とかかわるのかがカギだったと思います。
私も大学では理系の端くれとして暮らしていますので、ところどころ興味をそそられる話題があるのも魅力的です。
作品は「三ツ星館」という趣向を凝らした建築物を舞台にしています。その特性から作中ではたびたび「外」と「中」の定義について議論が交わされます。
例えばある平面上に自分を中心にして円を描くとします。この時多くの人は自分がいる領域を中と呼ぶと思います。しかし円をどんどん大きくしていくと、やがては外の方が小さくなります。その時は小さいほうが外、という奇妙な状態になります。「小さいほうが中」と定義していた人たちにとっては内外が逆転しますよね。つまり、内と外の定義というのは非常にあいまいで、これが今回の謎の主題になっているような気がしました。
よく意味が分からない方も本作を読めばはっきりしますのでご安心を。

私がS&Mシリーズを好きな理由のもう一つに犀川と萌絵の関係性があります。ミステリというジャンルは単調になりがちですが、キャラが立っているこの二人の関係性がもう一つの軸として存在していることが面白いポイントかなと思います。生粋の理系人間である二人の会話は一読の価値大いにありますよ。

自分の世界がどこに存在するのか。中なのか、外なのか。そしてそれは本当に「中」「外」なのか。
脳が回る感覚を是非。

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