背筋が凍る衝撃 『方舟』夕木春央

みなさま話題の本屋大賞ノミネート作品『方舟』はご覧になりましたか?

「とてもゾクゾクした」という朝井リョウ先生のコメントが目につき、私も手に取りました。
普段僕はミステリの感想を残しません。
いつかも書いたかもしれませんが、些末な情報すらも読む前に入れたくないからです。
なんなら帯に「大どんでん返し」などの文言が入っているのもいやです。

しかしこうしておすすめブログを書いているとわかる「勧めたくなるジレンマ」…。
僕と同じく事前情報を嫌う方、先に書いておきます。絶対に読むべきです。
直ちにブラウザバックし、TSUTAYABOOKSTORE岡山駅前店へ走るのです!!

 

サークルの友人たちと山奥の謎の地下建築「方舟」を訪れた柊一は、偶然出会った家族と夜を越すこととなります。
しかし明け方に発生した地震で、入り口が大岩でふさがれ、地下からは徐々に浸水が始まります。
誰かが地下に残り犠牲となれば岩をどかすことができるという極限状態の中で殺人事件が発生。
全員が「”殺人犯”が犠牲となるべき…。」と考え始める。

 

おおまかなあらすじはこうです。
みなさんはゲームのHPバーのように、徐々に自分に残された時間がすり減っていくのを実感する中で冷静な判断力を保っていられますか?
ましてやその中で殺人などが起きてしまったら。

この作品の中では「殺人犯が犠牲となってみんなを助けるべき」という共通認識が描かれます。
この考え方、みなさんはどう思われますか?
誰かを殺めている事実がある以上、殺されても文句は言えない。
ある意味贖罪といての対応を求めているように感じます。
では、殺人犯であるとはいえ、1人の人間をマジョリティで押しつぶして殺してしまう残りの人たちは…?

終始一貫して助かるべき命について無理やり考えさせられます。
鮮明な描写も相まって息苦しいと感じる独特の閉塞感がありました。

物語の本質を考えれば適切ではないかもしれませんが、トロッコ問題を想起する場面も多いです。
トロッコ問題とはご存知の通り、自分が分岐器を引くか否かで犠牲者の数が変わるというものですね。
この問題で考えるべきなのは、救える犠牲者の数だけでなく、自分が他人の死に関与するかどうかだと思っています。
本作中ではお互いが命の手綱を握り合っている状態。
他人の生死にかかわることを強制される気味悪さを疑似体験できます。

みなさまが読み進める間にどんなもやもやが生まれるのか、
また読了後、あなたの倫理観がどのように変化しているか。

ぜひ読み終わった人同士で共有してみてください。

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